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東京地方裁判所 昭和63年(特わ)2634号 判決 1989年5月08日

本籍

東京都板橋区南町五七番地

住居

東京都板橋区南町五七番五号

会社役員

和田彰三

大正三年二月一二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金六五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、和田製本工業株式会社の代表取締役会長であるかたわら、営利の目的で継続的に有価証券の売買を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右有価証券売買を被告人名義のほかに他人名義で行う方法により所得を秘したうえ、昭和六一年分の実際所得金額が四億五五九七万八九五一円あった(別紙一修正損益計算書参照)にもかかわらず、昭和六二年三月一二日、東京都板橋区大山東町三五番一号所在の所轄板橋税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の総所得金額が三八五四万五六四八円であり、これに対する所得税額が六一四万二二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成元年押第二三九号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二億九五二一万九七〇〇円と右申告税額との差額二億八九〇七万七五〇〇円(別紙二脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書四通

一  有宗良治、船田芳明、本間豊、和田一枝の検察官に対する各供述調書

一  和田やす、井口肇の収税官吏に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の有価証券売買益調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  押収してある昭和六一年分の所得税確定申告書等一袋(平成元年押第二三九号の1)

(法令の適用)

罰条 所得税法二三八条一項、二項

刑種の選択 懲役刑及び罰金刑の併科

労役場留置 刑法一八条

執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑につき)

(量刑の理由)

被告人は、一年間に合計五〇回以上かつ合計二〇万以上の株数又は口数の有価証券の売買をすれば課税されることを知りながら、被告人名義のほかに近親者の名義を用いて非課税の範囲内で取引し、相当高額な所得があったにもかかわらず申告しなかったもので、ほ脱金額、ほ脱率は相当なものであり、その責任は軽視できないが、その方法は右の程度にとどまっており、査察後十分反省し、事実関係を供述するとともに修正申告をして地方税を含め関係分の納税をしていること、有価証券の継続的取引の性質上年により所得の変動が高く損失が生じても、税法上他の所得との損益通算ができず繰越控除の手当がないことから、過去の損失及び確定申告時予測される今後の損失を考慮したいとの心情も理解できないわけではなく、その他被告人の年令、経歴、身体の状況等諸般の事情を考慮し、主文のとおり量刑した。

(求刑懲役二年及び罰金八〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田秀樹)

別紙一

修正損益計算書

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

和田彰三

<省略>

別紙二

脱税額計算書

昭和61年分 和田彰三

<省略>

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